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4話 つめたい記憶

Author: 鈴奈
last update Petsa ng paglalathala: 2026-02-13 20:00:58

 小学一年生の時の記憶がフラッシュバックする。

 お母さんがノーベル賞を受賞した時のことだった。その時私は、男女共学の公立学校に通っていた。担任の先生が教室で、クラスのみんなに、お母さんの受賞を知らせた。みんなが私を向いて、「すごーい!」と拍手をした。

「どんなことして賞もらったの?」

 誰かの質問に、担任の先生が、子どもにも分かるように、やさしく説明してくれた。

 すると、ある男の子が私を指さして言った。

「じゃああいつも、つくりものの人間なんじゃね!」

「きっしょ!」

「なんでブスメガネにつくったんだろ~」

 火の粉が次々と飛び散るように、男の子たちが口々に笑いながら言った。

 怖かった。体の底から体温がすーっと抜けて、氷になっていくみたいだった。

 周りの女の子たちが「サイテー!」「ゆうちゃんは人間の女の子だよ!」と守ってくれたし、担任の先生が男の子たちを怒ってくれたけど……。

 その日の帰り道だった。

 とぼとぼ歩いていたら、突然、背中を押された。思い切り転ぶ。

 後ろから影がかかる。振り向くと、大きな体の男の子たちが、三人、私を見下ろしていた。

「お前のせいで先生に怒られたじゃん!」

「このブスメガネ!」

 男の子が、腕を振り上げる。多分、石か何かを握っていたと思う。

 それをよく見る心の余裕なんてなかった。目をつむって、ぎゅっと体を硬くした。

 その時にはもう、私の体は恐怖で支配されていた。

 もともと、男の子は苦手だった。ちくちくと私をからかう、いやな存在だった。

 だけど、この日から、男の子がいると思うだけで、男の子の姿を一目ちらりと見るだけで、私の体は動かなくなった。いやなんて生半可なものじゃない、関わったら死ぬかもしれないと思うくらい恐ろしい存在として、私のすべてに刻まれた。

 それから私は、学校に行けなくなった。男の子がいる、と思っただけで、体が動かなくなってしまったから。

 担任の先生から事情を聞いたお父さんは、すごく怒って、すぐに私を女子校に転校させた。

 それから約十五年間、男の子は街で見かけるだけの存在だった。それでもドキドキ、ビクビクしきりで。今でも、そうで……。

 だから、男の人が普通にいる職場が……お母さんの言う通り、すごく、つらい。

 自分を変えなきゃいけない。それは、私も、思ってる。

 だけど、だからって、いきなりあの男の子が彼氏になるなんて。男の子と、恋愛するなんて……!

 どう考えても無理だよ……! できるわけない……!

 それに……。

 あの時、男の子たちが言った“ブスメガネ”。

 それは、本当のこと。

 私は、ブスだ。ブスな自分がいやで、嫌いで、何年も鏡を見ていないから、具体的に、どのパーツがどう醜くて、なんていうのは言えないけど。

 何をしたって無駄だから、可愛くなる努力もしてこなかった。だから、お化粧もしたことがないし、髪の毛も邪魔になったら整えにいくだけ。普段は一つに括ってまとめている。

 そんな私が、彼氏なんて。恋愛なんて、できっこない。身の丈に合わない。

 恋は、キラキラした世界に住んでる、可愛い人や、かっこいい人たちがするもので。私みたいなのは、この先ずーっと、縁がない。そういうもの。

 ……あの男の子も、キラキラしてたな……。

 たくさんのスクリーンに囲まれてキラキラする、彼の姿を思い出す。

 やっぱり、私はできない。

 掴みっぱなしだったぐしゃぐしゃな髪から手を離す。一度、髪を撫でてみると、変な癖のついた手触りの悪い感触が残った。

 ヴーッとスマートウォッチが震えた。

 メッセージだ。女子校に転校してから、ずうっと仲良しの親友、みりんちゃんから。

『やっほ☆ プリパレ最新作やった⁉ レントがまじでやばいから今すぐやって〜!!!!』

 ――みりんちゃん。

 みりんちゃんは、ずっと私の心の支え。困った時は、いっつもみりんちゃんのふかふかな胸に飛び込んでハグをしていた。私の話をいつも聞いてくれて、からっと笑って励ましてくれて、楽しいことをたくさん知ってて、もやもやしたことがあっても忘れさせてくれる、大切な大切な存在。大学を卒業してからは、フリーランスのイラストレーターになって、すごく忙しそうにしている。だからなかなか会えないけれど、こうやって頻繁に連絡してくれる。

 ぶわっと、今すぐみりんちゃんに飛び込みたい気持ちがこみ上がった。だけどそれはできないから、私は飛び込むように、みりんちゃんに電話した。

 プルルッと呼び出し音が鳴る。一回目のコールが鳴り終わらないうちに、みりんちゃんの顔がウォッチに浮かぶ。いろんな方向にぴょんぴょん寝癖が跳ねたショートカットに、見馴染んだそばかすいっぱいの丸い頬。黒いクマがくっきりしていて、ふっくらしていた顔は不健康にこけていたけど、みりんちゃんだ。涙がこみ上げた。

「みりんちゃ〜ん……!」

『おっはよ〜ん☆ 二徹のみりんちゃんどぇーす☆ なんとかレント吸って正気保ってま〜す☆ あっははははははは』

「みりんちゃん、助けて……! 急にね……!」

「ゆう〜。どうしよう~、食材が何もなくて〜」

 突然扉を開けて顔を覗かせた彼の声に驚いて、みりんちゃんがくるっと振り向く。

 液晶状態のみりんちゃんの瞳には、彼の姿が映っていた。彼はニコッとして、液晶状態のみりんちゃんに、

「こんにちは~! ゆうの彼氏の愛楽ですっ!」

 と言ってしまった……!

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あさりゅう
4話! そして親友へのいきなりのカミングアウトが!?
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